『囚飾活動 シュウショクカツドウ』【就活×エッセイ風味の恋愛小説】

サークル作品
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基本情報

  • 書籍|文庫判(A6)
  • 172ページ
  • 500円
  • 初版2015/05/04(月)発行

あらすじ

 時代はリーマショック後の就職氷河期――。
 そんな中、新卒としての就職活動を始めることとなった、関西経済大学三年生の月岡真宏(ツキオカ マヒロ)。アニメやゲーム、マンガが好きなオタクで『彼女いない歴=自分の年齢』の彼はビジネスタワーで会社説明会の帰りにある美人女子大生と出会う。
 今まで女の子と話す機会があまりなかった真宏だが、会話が順調に進み……。しかし、彼女は真宏とは対照的に非常にスペックの高い女子大生だった。
 果たして真宏は彼女と上手く関係を築いていけるのだろうか――?二人とも氷河を乗り越え無事に内定を勝ち取ることができるのだろうか――?

※注意※
就職活動中の学生様にとっては少々刺激の強い内容が含まれております。

序章(試し読み)

 今年もまた寒い季節がやってきた。十二月は例年通り、肌を刺すような寒さが広がり、世間はクリスマスだの忘年会だの何かと忙しくなる。

 もっとも、そんなイベントは現在大学三年生で、アニメオタクで彼女もいない自分には無関係だ。

 そもそも浮かれている場合でもないのだ。今年はただ肌が寒いだけじゃない。

 世界経済が凍り、景気が凍り、人々の心が凍る。

 氷河期の真っ只中、始まってしまったのだ。

 学生が社会人になる試練――就職活動が。

 十五日、大阪南港にあるオフィスタワーの三十階。

 清潔感ある貸会議室の中に俺はいた。

 今日は会社説明会だ。

 俺が訪れている会社は社員数十人という小規模なところだ。説明会に訪れた学生も自分を含め二十人弱といったところ。

 この時期は多くの大企業が説明会を開催しているため、必然的にそちらに学生の注目が集まる。皆、大手というネームバリューや、充実した福利厚生が欲しいのだろう。一生物として、安定を求めることはごく自然な心理だと思う。

 だが、俺は事業内容や会社の方針に魅力を感じられれば、大中小どこでもいいと思っている。もっとも、自分の通っている大学の偏差値は全国的に見て低いため、大企業への就職は困難だろう。先輩たちも「大手なんか学歴フィルターかけてるに決まってるやん」と言っていた。

 むしろ実際そうじゃないと、大変な受験勉強を乗り越えてきた京阪神の大学生が可哀想だろう。

「えー、それでは弊社の説明会を終了させていただきます。本日はお越しいただきありがとうございました」

 まだ三十代だろうと思われる若い社長の挨拶と、この場にいる就活生たちの拍手によって締めくくられる。

 今日俺が訪れた会社は、コスプレグッズのデザインや販売、レジャーランド向けの衣装を制作している所だ。

 そう、俺はオタクという人種だ。アニメやゲームはもちろん、ライトノベルやコスプレ(鑑賞専門)といったサブカルチャーが大好きだ。だから、就職情報サイトでそういった語句やそれに近いキーワードで検索して今ここに来ているわけだ。

 会社説明会が終了したということで、就活生たちが一人ずつ「ありがとうございました」と言って退室していく。中にはすぐに帰らず、ふと訊き足りないことなどが頭に浮かんで、今一度質問する学生もいる。俺もその一人だった。

 今後の事業展開や採用フローについて詳しく説明してもらった俺は、皆とは少し遅れて会議室を後にする。

 お気に入りのシルバーの腕時計は十八時を指していた。気づけば、閑静な廊下の窓ガラスから映るのは夜景だった。大阪南港はデートスポットということもあって、七色に輝くライトアップはロマンチックだ。

 もっとも、【彼女いない歴=自分の年齢】である俺には到底関係ない話だ。

 俺は誰もいない廊下で頭を二度横に振り、エレベーターへと向かう。

 ドアの前に先客が一人いた。スカートタイプのリクルートスーツを着ていて、その上からさらにビビッドトーンの赤いコートを羽織っている女の子だ。

 高い身長、すらっとした美脚、アイドル系の整った明るい顔立ち。さらさらとした清潔感のあるロングヘアー、上品な佇まい。まるでモデルのようだ。

 時間的に、おそらく同じ会社の説明会に参加していたのだろう。

(可愛いな……)

 言葉を交わしたわけでもないのに、俺の心臓が時めくような緊張するような感覚を味わう。

 変な奴だと思われたら気まずいので、俺は距離をあけて彼女の横に並ぶ。

「……」

 俺は何となく息を止める。

 こんなときに限って、エレベータードアの横に設置されているパネルは【1】を指したまま動かない。

 目を少し横に向けると、赤コートの彼女も棒立ちしているのが辛そうな様子だった。

(マズい、息が苦しい……)

 生命の危機的な意味で心臓がバクバクする。

 ようやくパネルの数字が【2】、【3】、【4】と上昇していく。

 俺は一旦音を立てずに息を吐き、もう一度息を吸って止める。

(【24】、【25】、【26】……)

 俺はいつの間にか変わりゆく数字を心の中で暗唱していた。

(【28】……)

 その数字を読んだとき、突如パネルの矢印が下向きに転換する。

「あ」

 赤コートの彼女が小さな美声を洩らす。

 やっぱり声も綺麗だ。

 と、俺が感銘している間にパネルの数字はみるみる下降していく。

「……」

「……」

 俺はつい口を開いてしまう。

「はは、行っちゃいましたね……」

 彼女の愛らしい双眸が俺の方に向く。

「そうですね」

 赤コートの彼女は苦笑いも美しく、元々女子とあまり会話したことのない俺はただそれだけで舞い上がってしまいそうな気分になった。

 ここ三十階にゴンドラが来るまでまだ時間はかかりそうだ。

「そういえば、きょ、今日の会社はどうでした?」

 女子との会話が不慣れなせいか、逆に俺の口は暴走し始めた。

 彼女の顔が暗雲をかき消す陽光のごとく晴れやかな笑顔になる。

「とても面白いことしている会社だと思いました。あたし、あまりコスプレとかはわからないんですけど、服飾に興味があって今日参加してみたんです。社長もチャレンジ精神旺盛でしたし、色々楽しそうなことができる会社かなって」

「そ、そうですよね。正直最初は小さい会社だから――って思ってたんですけど、結構多方面で事業を展開してるんだなーって」

 明るさと淑やかさを兼ね備えている彼女の口調に、俺はタジタジだった。

「来年、面接始まったら受けに行きますか? えっと……、その前にお名前聞いてもいいですか?」

 女子の方から名前を尋ねられるなんてことも無論初めてで、自分の気持ちが舞い上がっていくのがよくわかる。

「月岡真宏(ツキオカ マヒロ)と言います。あ、こっちもお名前教えてもらってもいいですか?」

「ちょっと変わった名字なんですけど、比能生由羅(ヒノウ ユラ)って言います」

「ヒノウさん?」

 彼女がくすっと笑う。

「〈比〉べる、能力の〈能〉に〈生〉きるって書くんです。何となく恥ずかしいので、由羅って呼んでください」

「了解です、由羅さん」

「こっちは真宏君、でいいかな?」

「あ、はい、OKです!」

 俺たちが名前を交わし終えると同時に、タイミングよくエレベーターが到着した。

 他の人はおらず、ゴンドラの中は俺たち二人っきり。密室空間になった瞬間、由羅さんの香水の芳しい匂いが広がる。下降していくエレベーターとは逆に、俺の心は今にも昇華してしまいそうだった。

「夜景、綺麗ですね」

「お、おー、本当ですね」

 エレベーターガラスから映る七色の景色を、由羅さんは淑やかな笑顔で眺めていた。

 俺はまさかそんなセリフを掛けられると思わず、咄嗟にそう答えてしまった。

 そっけなかっただろうか。もっといい返しがあっただろうか。

 生まれて初めての状況に、俺の脳はフル回転で悩み始める。

 もうすぐ十八時半。

 この胸の高鳴りが少しずつ言葉として見えてきた。

 由羅さんともっと話したい――。

 一期一会で終わらせたくない――。

「そういえば、帰りはどっち方面ですか?」

「あたしは池田です。真宏君は?」

「僕は西宮です。地下鉄で梅田まで行って阪急に乗り換えって感じです」

「じゃあ、一緒ですね! あたしも梅田から阪急なんです」

「本当ですか! じゃあ、せっかくですし、そこまでご一緒しましょう!」

 言ってしまった。

 しかも上昇するテンションに任せて、声が裏返ってしまった。

「はい、ぜひ」

 そんな後ろめたい気持ちは、まるで咲く花のような彼女の笑顔によって一瞬でかき消された。

 いつの間にかエレベーターが1階に到着する。

「どうぞ」

 ドアが滑らかに開くと、俺はすかさず”開”のパネルを押し続ける。レディファーストってやつだ。よくできてるよ、俺。

「ありがとう」

 由羅さんがウキウキした足取りで先に出て、俺はできるだけ紳士を意識しながら続く。

 ああ、何だろうこの気持ちは。

 と、悩んだところで答えはもう出ている。

 高校は男子校、大学に入っても女子の友人ゼロの俺にもついに春が訪れたということだ。

 まだ出会って間もない上に、付き合ってもないけれど、それでいいのだ。

 俺は今までで一番軽やかな足取りで由羅さんの隣に並ぶ。

 でも、このとき俺はまだ知らなかった。

 由羅さんと出会ったことで、就職活動(シュウショクカツドウ)だけじゃなく、囚飾活動(シュウショクカツドウ)も始まることになるなんて。

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