『メタモルフォーゼ-復活の魔眼-』【新生バイオ系バトルアクションSF小説】

サークル作品
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基本情報

  • 書籍|文庫判(A6)
  • 200ページ
  • 600円
  • 初版2020/04/12(日)発行

あらすじ

 新人類(Neo Human Being)。それは五年前日本未来生命研究所によって生み出された生物兵器であり、その被験体となるのは行き場を失った若者達だった。彼らはヒトの姿をしているが、体内に植えつけられた特殊な細胞を覚醒させることで超人的な力を発揮する。

 警察庁N.H.B対策本部の努力により、日本列島に流出した有害なN.H.Bはほとんど駆除されている状態にあった。しかし、時を経て日本メトロポリスアイランドにてまた新たにN.H.B開発が行われていることが発覚する。そして、それを良しとしないN.H.Bの組織も台頭する。

 五年前、日本列島で大々的なN.H.Bの実験を行い、警察によって逮捕された大罪人ヴァネッサ・クレアシオン。一生出ることを許されない拘置所に囚われている彼女も、そんな新たな動きに巻き込まれることとなる。
 バイオ系バトルアクションSF小説、新章開幕。『百獣の女王』から五年後の世界で生物兵器N.H.B再び――。

序章(試し読み)

 神暦二〇二三年、日本列島の真横にある広大な埋め立て地、日本メトロポリスアイランド。面積は列島の約五倍の面積を誇り、世界中から注目されるほどの経済発展を遂げている、工業が中心の島だ。都心では高層ビルやマンションが立ち並び、郊外では綺麗に整列された清潔感ある工場や物流センターが立ち並ぶ。常に最先端技術が生まれ、集約される日本は今や先進国の中でもトップクラスの経済大国となった。

 表があれば裏もある。発展の代償として、格差社会が広がり、少子高齢化が凄まじいスピードで加速している。裕福な家庭であっても一度堕ちれば二度と這い上がれない。これからの未来を担う若者を冷遇し、これから死を迎える老人に優しい社会。

 そして、日本は五年前にもう一つ、大きな過ちを犯した。それは生物兵器の流出。蔓延はしなかったが、日本列島にヒトの姿をした化け物が散り、多くの人々が犠牲になった。同じ過ちが今、この島から起ころうとしている。

 月のない午前一時の空の下。メトロポリスアイランド最南部に位置する、海に面した一千万平米の大病院にある変電設備が、地鳴りのような轟音と共に爆破される。炎と黒煙が立ち昇るや否や、火災報知器のベルが病院の外まで激しく鳴り響く。病院内の明かりは非常灯によってすぐに回復するが、今度は病院の一階全体を囲う六メートル超えの窓ガラスが、連鎖するように次々と爆破されていく。爆風を直に受けた職員や患者の体は、四散し飛んできた瓦礫やガラスの破片で傷つき、内装は一瞬のうちに燃え盛る。

 逃げ惑い外に出て行く人々とは対照的に、どこに潜んでいたのか、黒い軍用戦闘服を身に纏った者たちが次々に中に侵入していく。服の中は防弾ベストや防弾アーマーで武装している。彼らは中にいる人間たちには目もくれない様子で、まるで何かを探しているように首を左右に振りながら疾走している。彼らが走るスピードは異常で、明らかにヒトが出せるような速度ではない。

 白衣を纏ったドクターを捕まえては、人間離れした力で首を掴み、壁に押しつける。

「トーマス・ワイズマン博士はどこにいる?」

「し……、知らない! 誰だ、それは?」

「役立たずが!」

 戦闘員の手が突如、異常な変形を起こす。手の甲からまるで獣のように長い体毛が生え、五本の爪がまるでヒグマのように頑丈で鋭いものとなる。

「貴様、まさか新人類(Neo Human Being)か……? まだこんな事を起こせるくらい生き残っていたとは……」

 黒い爪はまるで紙に穴を空けるくらい簡単に、医師の腹部を貫き、ドクターは瞬く間に亡骸と化す。

 *

「くっそ……、一体何が起こったってんだ!」

 上下を薄緑の病衣で身を包んだ青年は、突然の振動に動揺を隠せない。坊主頭と氷のように透き通った空色の瞳。鍛え上げられた筋肉質な体型、目元に傷が刻まれた人相の悪い顔つきが特徴的だ。

明らかに地震や台風といった自然災害ではない。爆弾か何かでこの病院が襲撃されていることを実感する。彼は病室という名の牢獄に閉じこめられているが、煙や熱気はロックされた自動ドアの隙間を抜けて押し寄せている。個室の電灯は切れ、淡い緑の非常灯に切り替わる。

 自動ドアのランプは依然として赤色のランプが点灯していて、内側からは開けられない。徐々に室内の酸素が奪われ、呼吸が苦しくなり全身から汗が噴き出す。

「誰か! 誰かいねぇのか!」

 青年はドアを叩くが、扉は焼けるような熱を帯びていて、すぐさま手を止める。脳に供給される酸素が徐々に少なくなり、立っていることも辛くなる。このままだと死んでしまう。

(ろくな人生じゃなかったが、こんなくたばり方はゴメンだぜ!)

 ベッドシーツで鼻と口をガードしていても、煙は容赦なく侵入してくる。彼は立ち眩みを起こし、仰向けに倒れそうになるが、片足に力を入れて踏ん張る。転倒はしなかったが、もはや両足で立っていることは難しく、跪くように膝を床につける。

(ヒトを超越した力を得ても、こんなもんかよ……。ここで終わっちまうのかよ!)

 彼が歯を食いしばり、死を覚悟した時。甲高いブザーと共にドア横のランプが青色に切り替わる。

 奇跡が起きた。

なんて、彼は思わない。ドアの外側に多数の気配を感じる。彼のヒトの遺伝子に絡みついた、獣のDNAが警戒を促す。獣の意思は束縛されていて、解放することはできない。それでも、生存本能だけは鎖を引き千切り、大脳から全神経に伝達される。

 真っ白の引き戸が手動で勢いよく開かれる。病室の外には【GMA-15 ABSOLUTE ZERO】と刻まれたプレートが鈍く輝いている。

「大丈夫か? ニコライ!」

「雅彦! お前ら……」

 ニコライと呼ばれた青年が空色の瞳を上げると、彼と同じように病衣に身を包んだ二十代の男女が十五人程映る。先頭に立っていた黒髪の青年に手を差し伸べられ、ニコライは大きな手でがっちり掴んで立ち上がる。煙の濃度が薄まり、目が覚めるように意識が楽になる。

 彼らはニコライと同じ境遇の仲間だ。現代社会において行き場を失った若者たち。衣食住も仕事もあるという誘いに騙され、マッドサイエンティストのモルモットとなり、ヒトという存在ではなくなった。

「一体何が起こったんだ?」

「わからない。とにかく、今がここから抜け出せる絶好のチャンスだ。制御装置を外そう」

 雅彦が後ろにいた長髪の女に視線を移すと、彼女の手が肌色から銀色に染まっていく。まるで魚の肌のように光沢がある。親指と人差し指の間から金属のようなギザギザの刃が生えて、まるで剣のようになる。彼女の体内に宿るダツという魚のDNAが呼び覚まされ、ヒトの肉体の一部が変形したのだ。

「離れて」

 彼女は小声で周囲の距離を空けさせると、ニコライの腕に装着されていたリング状の機械に剣を通し、ノコギリのように削って切断する。その瞬間、ニコライの中で枷を掛けられていた獣の遺伝子が自由を得る。体内にヒトを超えた力が漲る。普段彼らはヒトの姿をしているが、体に配合された動物DNAを覚醒させることによって、その動物の特徴を表に出すことが可能になる。

「サンキュー、テヨン。助かったぜ」

「いいえ、まだ助かっていないわ。ここは地下。早く脱出しないと、いくら私たちが新人類(Neo Human Being)といっても、酸素が枯渇すれば命はない」

「おまけに何者かによる襲撃が今も継続されている。早いところ出口を見つけ出すぞ」

 不当に生物兵器――新人類(Neo Human Being)、通称N.H.Bとなってしまった彼らは、人間よりも速い速スピードで迷宮のような廊下を駆け出す。交差点には見取り図のパネルが掲げられているが、複雑に入り組みすぎていてじっくり見ている余裕はない。

「エレベーターは駄目だろう。非常階段を目指すぞ」

 一同は廊下を走り続ける。照明は赤く点滅し、耳をつんざくような警報音が鳴り響く。時折彼らの肉体改造に関与したと思われる、白衣を羽織った研究員が倒れているが、皆脇目もふらず一心不乱に目的地に向かって全力疾走する。左折と右折を繰り返し、人間である研究員たちの死体を飛び越える。

「止まれ、お前たち!」

 まだ煙の充満していないエリアでは、研究員の意識がはっきりしている。ハンカチを口に当てて片手が塞がっているものの、もう片方の手には拳銃が握られている。

 銃口を向けられてもN.H.Bである彼らは恐れない。銃を持つ手と引き金にかけられている指、弾が発射された場合のコースを見切り、むしろ距離を詰めていく。

 研究員たちは恐怖に引き攣った顔をするや否や、ニコライたちの人間離れした力で殴られ、瞬く間に気絶させられていく。

「よし、ここか!」

 転がった研究員たちを廊下脇に蹴り飛ばし、ニコライは見つけた重厚な非常ドアに向かって駆け出す。彼は無我夢中になっていたせいで、その先に潜んでいた気配を感知し逃す。雅彦は血相を変えて叫ぶ。

「待て、ニコライ! 何かが向かって来ている!」

「何だって?」

 彼がドアノブに手をかけようとした瞬間、分厚い鉄のドアが大きく凹んでしまうほど強い力で反対側から勢いよく開けられる。ニコライは吹き飛ばされ、固い床に背中から叩きつけられる。痛みに顔を歪めている暇はなかった。特殊部隊のような黒いガスマスクと戦闘服に身を包んだ者たちが何人も姿を現す。両手は明らかに人間の手の形をしておらず、中には背中から昆虫の脚が生えていたり、腕から鳥獣の翼が生えていたりしている。

「こいつら……! まさかオレたちと同じ――」

「皆殺しにしろ」

 戦闘員の誰かが掛け声を発すると、弱肉強食という自然界の摂理に習い、病衣を羽織った若者たちに襲いかかる。

 無論、同じ生物兵器である彼らも各々に宿る体内の動物DNAを覚醒させ、ヒトの身から姿を変えて天然の凶器を隆起させて反撃する。それでも、先制攻撃を受けた数人の肉体は千切られ、切断されて鮮血を散らす。

 ニコライは突如仲間の無惨な死を目の当たりにし、言葉にならない雄叫びをあげながら身を起こす。

「こいつら、戦闘慣れしている……。ここは俺が引き受ける! お前たち、上階を目指して走れ!」

 ヒョウモンダコのDNAを覚醒させていた雅彦は、両腕を合計八本のタコの腕に変形させ、戦闘員に刺されたり殴られたりしながらも必死に彼らを絡め取り抑えている。口や腹からはおぞましい量の血液が流れ出ている。

「雅彦!」

「俺に構うな! お前たち、絶対に生きろ! 体はヒトじゃなくなっても、俺たちにはヒトの心がある。生き延びてもう一度人生をやり直……せ……」

 青年たちの半数は彼の言う通り、背を向け違う出口に向けて、蜘蛛の子が散るように駆け出す。半数は彼を救おうと戦闘員に立ち向かうが、敵は明らかに特別な戦闘訓練を受けていて、太刀打ちできていない。あっさり返り討ちにされ、四肢が切断され、死体という肉塊に姿を変える。

 雅彦たちも生物兵器N.H.Bなのは間違いなく、模擬戦なら経験したことがあっても実戦は経験したことがない。彼らは生物兵器という存在でありながら、それが目的で開発されていなかったことが理由だ。  勝ち目がないと感じたニコライは、人相の悪い顔に似つかわない涙を浮かべながら、新たな出口を求めて全力疾走する。自分と同じように、辛い経験を積んできた仲間たちに背を向けて。

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書籍|文庫判(A6) 200ページ 新人類(Neo Human Being)。それは五年前日本未来生命研究所によって生み出された生物兵器であり、その被験体となるのは行き場を失った若者達だった。彼らはヒトの姿をしているが、体内に植えつけられた特殊な細胞を覚醒させることで超人的な力を発揮する。 警察庁N.H.B対策本部の努...

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